本気な大人ってカッコ悪いくらいカッコいいと思う① 予選で散った男たちにもドラマがある~第89回都市対抗野球大会~

山本祐香

誰もが勝ちたいと思って挑む勝負。

それでも必ず、勝者の数だけ敗者が生まれてしまう。勝負の世界とはそういうもの。

敗者は、そこを去らなければならない。たとえそれが誰かにとって人生最後の試合になったとしても。勝ちたかった、もっと野球がやりたかった、頂点からの景色を見たかった、そんな敗者の思いが一段、また一段と積み重なり、勝者はそれを踏みしめて上へ上へと上っていく。

 

暑くて熱い夏が始まる


今年も7月13日から12日間、東京ドームで都市対抗野球大会が行われます。全ての社会人野球チーム、選手がこの大会への出場、そして優勝を目指して一年を過ごしていると言っても過言ではない、そんな都市対抗野球大会。
 

昨年の都市対抗野球大会開会式の様子


前年の優勝チームであるNTT東日本は推薦出場、その他の31チームは地区予選を勝ち抜いて本戦への出場を決めました。過去59回、そして昨年まで15年連続で本戦に出場していた日本生命が予選敗退となるなど、どんなに強いと言われるチームでも必ず東京ドームに辿りつけるかわからない厳しさが、怖いところでもあり、観るものにとっては面白いところでもあります。

「面白い野球はたくさんあるけど、都市対抗本戦の出場切符をかけた戦いが一番面白いんじゃないかな」

長年社会人野球を取材しているベテラン記者のそんな言葉に、首がとれるほど頷いたくらい、1プレー1プレーに人生をかけた男たちの戦いが繰り広げられる地区予選。まずは、東京ドームに行けないことには何も始まらないのです。

また、地区予選は訪れるマスコミの数も少なく情報も少ないことから、現地に足を運ばなければわからないことがたくさんあります。チームカラーや有望選手、スタンドの応援を含めて、こんなチームがあったんだ、こんな選手がいたんだと、新しい発見があることでしょう。

そして、そんなたくさんのチームの敗北があったからこそ、東京ドームで戦う32チームが生まれたんだと。

 

予選で散った男たちにもドラマがある


5月25日、北海道地区でも1次予選が始まりました。

1次予選は岩見沢市野球場と栗山町民球場で同時に行われるため、残念ながら全ての試合を観ることは不可能。筆者は2日目と3日目に栗山町民球場を訪れました。

北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督が作った少年野球場のある“栗の樹ファーム”で有名な栗山町です。
 

大会ごとのガイドブックは用意されていないが、年間通して使える「北海道社会人野球チームガイド」は内容が濃く便利


この日の試合での注目チームのひとつ、札幌ホーネッツ。昨年2度に渡り取材をさせていただいたホーネッツ・レディースの兄妹クラブチームです。

この日は札幌倶楽部と対戦。試合前の練習が始まると、かなりの音量で音楽が流れてきました。関ジャニ∞の「ズッコケ男道」です。しかし、よく聞いてみると替え歌のようですし、歌っているのも明らかに関ジャニ∞ではありません。そして今度は「宇宙戦艦ヤマト」です。サビの最後、“宇宙戦艦ヤ~マ~ト~”の部分が“最強軍団ホ~ネ~ッツ~”となっていて、しかも無駄に(と言っては失礼ですが)歌がうまいんですよね(笑)。

気になりすぎるこの音は、どうやら芝生の内野スタンドのDJブースから出しているようです。そこにいたのはなんと、札幌ホーネッツ他、数チームを運営しているNPO法人北海道ベースボールクラブのCEO!! CEOが自前のローランドのスピーカーとべスタクスのCDJで、栗山町の空にいい音を響かせていたのです。

「ズッコケ男道」は在籍していた選手たち、「宇宙戦艦ヤマト」はコーチが歌ったものということで、試合前にこの2曲を聞くことは北海道の社会人野球ファンの楽しみのひとつでもあるようです。試合が始まってからも、札幌ホーネッツの攻撃前など要所で、いい感じで曲が流れます。ナイスだDJ CEO!! 大応援団がなくとも、盛り上げ方はいろいろあるのだと教えてもらいました。

試合は1回表から2失点と苦しいスタートとなりましたが、その裏先頭打者の小林嶺選手(稚内大谷・1年目)が左中間に3塁打を放ち、4番の山田紘史選手(札幌大・4年目)の右前適時打で1点を返します。
 

3塁打を打った1番DHで出場の小林嶺選手(稚内・1年目)


さらに3回表に2点を失いますが、その裏小林選手の左前安打をきっかけに、1死2,3塁から山田紘選手の左前適時打や石郷翔選手(北海学園大・9年目)のスクイズなどで3点を加え4-4の同点に。

しかし4回表、札幌倶楽部が再び1点勝ち越し。とってとられての展開が続く中、1死1塁からまたまた小林選手、中越適時2塁打で追いつきます。

5-5で迎えた6回裏には、河野拓真選手(札幌大谷大・1年目)が左前安打で出塁、小林選手が今度はレフトスタンドに本塁打を放ち2点を勝ち越します。その後も両チーム得点を重ねますが、最後は12-9で札幌ホーネッツが勝利。小林選手の2点本塁打が決勝打となりました。
 

本塁打を打った小林選手。この春、日本のあらゆる野球シーンで流行したサイレントトリートメントを受けてからのハイタッチ


さらに、この本塁打をもって小林選手はサイクル安打を達成! 左中3・左前安・中越2・左本と最小の4打席で達成し、5打席目も中前安打、さらに言えば次の日の対航空自衛隊千歳戦の第1打席でも左本塁打を打つという、ルーキーとは思えない活躍を見せました。

試合後の小林選手の話では「ゴールデンウィーク頃までは全然打てなくて、スタメンを外されたりしていました。その後、オープン戦で調子が上がってきました」とのことで、その調子が上がったきっかけは「扇さん(拓也選手/函館大・2年目)にフォームを改造してもらった」からだそう。

今年から札幌ホーネッツの一員になって、チームの印象を聞いてみると「すごくいいチームで温かく迎え入れてくれています」と、いい環境でできているようです。高校まで過ごした稚内市を離れ現在は札幌の大学に通い、一人暮らしをしながら野球にも打ち込んでいるようで、本当に野球が好きなんだなと感じるキラキラした瞳が印象的でした。

新人賞を目指しますよ! と言ってくれた小林選手でしたが、チームが1次予選敗退となってしまったため惜しくも受賞はならず。しかし、“1次予選敢闘賞”を受賞しました。今後の成長が楽しみな選手です。

試合前に流れる音楽から始まり、サイクル安打達成者が出るというインパクトを残した札幌ホーネッツ。地区予選の醍醐味でもありつつ、全国の舞台でたくさんの人に観て欲しいチームのひとつとなりました。

インパクトといえば、栗山町民球場のスコアボード。選手名は完全に表示されず、調子が悪いと7回裏の数字も表示されないため虫食い算のようになるのですが、それより何より面白かったのがBSOのボールカウント表示です。


野球観戦をよくする人の頭には気づかぬうちにすり込まれているそれぞれの色、“ボール”は“青緑”、“ストライク”は“黄色”、“アウト”は“赤”ですが、この球場ではボールとストライクの色が反対なのです。昔はSBOの順で表示されるのが一般的だったため、国際慣習に従って現在主流になっているBSOの順に変えたときに予算の関係から色は変えなかったのではないかと予想していますが、人間の脳というのは面白くて、どんなにBの列でランプが点いたとわかっていても色が黄色だと一瞬ストライクだと認識してしまうのですよね。これは現地でぜひ試してみてください。

選手たちに恵まれた環境で野球をやって欲しいと思う反面、そんなスコアボードやハーフパンツにサングラスのボールボーイ、目の前に広がる豊かな自然を見ていると、バットとボールとグローブさえあれば世界のどこでも野球はできるのではないか、と野球に対して固くなった頭と心をほぐしてくれる2日間でした。

全国で行われた地区予選。もしかしたら、敗れた者の方がすごいプレーをしたかもしれない。印象的な試合をしたかもしれない。すごい記録を作ったかもしれない。

それでも、東京ドームに行けるのは勝った者だけ。

どんな試合でもひとつひとつの試合にドラマがあり、それが何十、何百と積みあがった上に東京ドームでの都市対抗野球大会があります。そんな猛者をなぎ倒して東京ドームに辿りついた選手たちの戦いを12日間思う存分楽しみましょう。

いよいよ、本気の大人たちの戦いが始まります。
 

昨年優勝したNTT東日本。今年の優勝はどこになるのか!?

 

山本祐香
好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいとふと思い、OLを辞め北海道から上京。「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間120試合以上観戦し観戦記録をつける日々。最近の楽しみは、大学野球で逸材を見つける“仮想スカウティング”。面白いのに日の当たりづらいリーグを太陽の下に引っ張り出すべく、世の中に向けて発信をしていく。