「教え子をプロに行かせたい」玉川大野球部の"三匹のおっさん"

大友良行

「この投手で勝てる!」

 

「まずリーグ2部で優勝して、入れ替え戦で1部へ上がる。そしてエース山田綾人投手を育成枠ではなく、なんとしても支配下登録選手としてドラフト指名を受け、プロに行かせてあげたい」というプロジェクトを実行中なのが首都大学リーグ2部、玉川大の三人の指導者たちだ。

 (左から山田投手、樋沢監督、関本コーチ、杉山コーチ)



このお三方、今風に例えるならばテレビドラマ『三匹のおっさん』だ。還暦男性三人に扮した北大路欣也、泉谷しげる、志賀廣太郎がご近所の事件に遭遇し、力を合わせ解決する様子を描いたテレビ東京の人気シリーズ番組。玉川大の三人の指導者は、読売巨人軍V9時代を支えたレジェントたちだ。その指導者たちに対して、「三匹」とか「おっさん」という表現は大変失礼だとは思うが、昨今の「おっさんブーム」に免じて、何卒ご容赦いただきたい。
 
 さて、プロ野球界を知り尽くしたレジェントお三方が、どれだけ素晴らしい実績を持つのか。彼らの略歴を見てみよう。
 
まず、樋沢良信監督(69才)。東北高から社会人の電電東北を経て、1970年巨人へドラフト4位で入団した内・外野手をこなす万能選手。V9時代の名手、土井正三2世とも評されていた。
 
3年目にはイースタンリーグで盗塁王にもなったが、ケガが多く、1軍登録はあったものの出場のないまま1075年に膝を痛め、現役引退。引退後は球団に残り、スカウト、チーフスコアラー、記録室長を約10年、一軍から三軍までの内・外野守備コーチを5年間担当した。2005年から2010年末の定年退職までは「ジャイアンツ寮」の寮長を務め、坂本勇人、山口鉄也、長野久義選手らに、野球だけでなく社会人として必要な一般常識を教え込み、育てあげている。選手として入団して以来、定年まで同一球団に在籍した、珍しい存在だ。
 
そして2014年3月から玉川大野球部監督となり、今季で6年目を迎える。


(練習の合い間に談笑する樋沢監督(左)と関本コーチ) 



二人目は関本四十四特別コーチ(70才)。1967年にドラフト10位で糸魚川商工高から巨人入りした右腕投手。V9戦士の一人、髙田繁選手とは同期入団だ。どういう訳か入団3年間は打撃投手を務め、4年目にやっと1軍ローテーション入り。10勝11敗で、遅まきながら新人王を獲得した。
 
同年日本シリーズ阪急戦で2試合に登板して日本一に貢献。1974年も10勝をあげ最優秀防御率を獲得した。1976年に太平洋クラブライオンズ、1977年太洋ホエールズを経て、1978年現役引退。引退後は、巨人の2軍投手コーチを計8年務め、2014年から玉川大特別コーチに就任。横浜の少年野球、青葉綠東リトルの会長もしている。
 
 三人目のレジェントは杉山茂特別コーチ(69才)だ。1968年ドラフト6位で捕手として銚子商高から巨人に入団。上に森昌彦、吉田孝司捕手らがいて出場機会に恵まれなかったが1977年シーズン後半に15試合に先発でマスクをかぶり、同年の日本シリーズでも3試合に出場した。1982年の現役引退後は、トレーニングコーチを計10年、1軍バッテリーコーチやスコアラーも務めた。
 
現在は幼稚園から小学6年生までを対象にしたジャイアンツアカデミーで野球を教えていると同時に、2014年から玉川大の特別コーチもしている。

レジェンドも目を引く才能

 元巨人軍のレジェント三人組が、プロに行かせたいと思っている選手とは、玉川大のエース山田綾人投手(4年、桐光学園出身、右投右打、186㌢、94㌔)のことだ。
 最速151㌔のストレートが売り。カウントを取るチェンジアップとカットボールを含め、スライダー、カーブで追い込んでから三振を獲りにフォークで決める。

(玉川大・山田綾人) 


中学時代は青葉緑東シニアに所属、2学年上には松井裕樹投手(楽天)がいた。1年時にはリトルシニア日本選手権で優勝、代打で1度だけ打席に立ち、結果は二塁ゴロだった。2年時には、4番右翼手として出場したシニア全国選抜大会で3回戦進出。その冬に投手へと転向した。そして3年時には、同じ全国選抜大会でベスト4となる。山田投手はリリーフ登板し、135㌔を投げた。
 
高校進学時には、多くの強豪高校から誘われたが野手としての評価だったため、投手として声を掛けてくれた神奈川の桐光学園に進学。しかし桐光学園では、肩を壊したり、左足首を骨折したりでケガに悩み続けた。そんな中でも2年秋からベンチ入りを果たし、3年夏は背番号20で控え投手となったが、出番はなく、素質は未開花のまま高校時代を終えた。
 
大学は周囲の薦めもあり玉川大に指定校推薦で進学。玉川大は、首都大学リーグ2部の一員で、玉川大をはじめ獨協大、東京経済大、明治学院大、日本ウェルネススポーツ大、さらに大東文化大、明星大、城西大、足利大、成城大の10校が参加。1部は強豪の東海大、筑波大、日本体育大を筆頭に帝京大、武蔵大、桜美林大の6校から成り立っている。リーグ戦終了後、1部最下位校と2部優勝校の入れ替え戦が行われる。
 
山田投手は、大学に入るとケガも治り1年春からリーグ戦のマウンドを踏み、秋に2勝。2年秋には、5勝をあげリーグ最多勝と、その実力の片鱗を見せ始めた。3年春で3勝したものの肘に違和感を覚えた。軟骨や骨の小片が、関節内に遊離して動き回る、所謂“ネズミ”と言う症状だ。少年野球の投手に多いケガの一種で、まだ発育途中の関節を酷使したために起きるスポーツ障害の一つだ。シーズン中だったが、先を考えて、遊離軟骨のクリーニング手術をした。
そんなことから3年秋は棒に振ったが今春は手術経過を見ながら少しずつ五、六回を目途に投げている。
 
「夏にしっかり鍛え治して、秋に勝負をかけ、高評価してもらえればプロは夢ではない。それには、もっと三振を獲りたい。5回までに7、8つは欲しい。課題は変化球が操れないこと。真っ直ぐは全国レベルだと思う。これに高速スライダーがあれば完璧なのだが。チェンジアップとフォークに安定性がない。口うるさくプロの評価は、こうなんだと教えているので、ある程度はわかってきたようだがまだまだです。しかし、体はあるし、投げ方にクセがないので楽しみです」とピッチング担当の関本コーチ。試合中は一、三塁側から投手の体重移動を中心にプロの目でチェックして、厳しく教えている。
 
ネット裏にドンと陣取るのは杉山コーチ。足腰、背筋を鍛えるトレーニング方法は勿論のこと、バッテリー間の配球や、間合いの取り方など、捕手経験を活かして入念にメモ。試合後の反省材料の一つとして選手たちにアドバイスを与えている。
 
樋沢監督は、ベンチから全体の流れを見ながらサインを出す。三人とも今年が指導する最後の年と決めているので『一部昇格、山田投手のプロ入り』をラストテーマにプロジェクト計画の完成目指して、熱く真剣に取り組んでいる。
「我々が就任した1年目は春秋とも、たったの1勝で最下位。プロと比較してはいけないのでしょうが、とにかくひどかったですよ。野球とは縁遠いものでした。ルールも知らないし、ただ打って、捕って、投げるだけ。チームプレーなんて全く出来ない。高校生以下でサークルみたいでした」と当時を振り返る樋沢監督。
 
そこで三人で考えた。やる気を引き出すために、練習は全員平等にボールを持たせる。
叱る時は、その理由を示し「こうすればもっと上手くなる」と言えばその気になって練習する。育てる為に各自、目標を持たせた。そうすることによって、選手たちはやる気を起こし力をつけてきた。昨年秋には、優勝こそ逃したもののチーム打率は2部でトップ。ベスト9に3人も選ばれた。

(チームワーク良くボール磨き)
 


「一番大きな出来事は、監督就任3年目に山田が入ってきたことです。体は大きいし、投げ方も良い。将来性十分。4年後にドラフト候補になるように育てようと、三人の意見は一致しました。技術的な面は関本、杉山両コーチに任せて、私はこれからの人生を教えています。例えば、野球は“考動力”だ。社会に出たら、何かを考えて動かないと駄目だ。気配りが出来ないと苦労する。技術は大事だが、まだ精神的に甘いので、そこを改めるように厳しく言っています。本を読みなさい、テレビでもいいから野球を見て、自分ならこの場面でどう対応するのかを考えなさい。また、朝食を食べないので強制的に食べさせています。プロは体が資本ですから。坂本勇人選手(巨人)たちにも同じことを言ってきました。それが、プロでユニホームを1分1秒長く着ることに繋がるからです。近頃の若者は、スマホでゲームばかりやっていますからね」と巨人軍寮長時代の経験を伝える樋沢監督。

(打撃の基本練習する選手たち) 



肝心の山田投手自身は、お三方をどう思っているのだろうか。
「大変な方々だと父から聞いてビックリしました。そういう方々から教えていただけるなんて幸福者です。技術をはじめ野球への取り組み方、姿勢などを学ばせてもらっています。大事な恩人です。期待に応えられるように、必死で練習しています。なんとしてもプロ野球選手になりたいです」
 
そして、こう続けた。「今春は、ネズミの再発の恐れがあるので、球数制限をして試合に臨んでいます。それなりの手応えは感じています。秋にはフル回転で挑むつもりです」
 
4年春の第4週4月28日まで38試合210イニング投げて通算11勝、奪三振159。防御率は2.44となる。好選手不足のチーム事情を考えると、良い方だろう。
 
プロ入りに関しては、どこの球団でもOKだが、小学生の時に横浜DeNAベイスターズ・ジュニアにいたため、横浜DeNAベイスターズの大ファンらしい。特に三浦大輔投手(現、1軍投手コーチ)のファンでレプリカ・ユニフォームも持っているそうだ。
 
秋に向けては「まず三振奪取率を良くすること。2ストライクまでは獲れるが、変化球がないのでファールで粘られ、結局ストレートを打たれてしまう。そのため、ブルペンでは、変化球中心の練習をしています。スライダーやチェンジアップ、それにシンカー系の落ちるボールを会得したい」と意欲満々だ。楽しみにしたい。
 
「三匹のおっさん」たちが描く「エース山田投手のドラフト指名」と「チームの1部昇格」プロジェクトが、いよいよ最終段階に入った。



▼前回の大友良行コラム「元横浜高校名コーチが褒める逸材とは?」
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大友良行
元大手新聞社の報道カメラマンで現フォトジャーナリスト。ニュースの最前線で見てきた人々の喜怒哀楽を行間の端端、写真の隅々に秘められればと願う。大リーグをはじめ、W杯や国内外のサッカーなども取材。現在は、幅広いネットワークを持つ高校・大学・社会人野球がメイン。著書に「CMタイムの逆襲(東急エージェンシー)」「野球監督の仕事(共著・成美堂)」などがある。